大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和33年(ワ)6488号 判決 1958年12月26日

原告 居串正夫

右代理人弁護士 青木平三郎

外二名

被告 飯泉儀一郎

右代理人弁護士 安藤十郎

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

本件契約書が法律関係(どんな内容の法律関係かはしばらく別として)を証する書面であることは明かである。

本件訴は契約書の成立が真正でないことの確認を求めるいわゆる証書真否確認の訴に属するものであるので、まずその確認の利益の存否について判断する。

一般に証書真否確認の訴を独立に提起し得るのは特殊の場合であつて、その目的である証書の真否確認によつて同証書に表示されている原告の法律上の地位についての危険又は不安が直接かつ根本的に除かれる事情にあるならば、その証書の成立が真正か否かを確認することは、右原告の法律上の地位の確定につきいわゆる確認の利益を有するものということができようが、同証書の表示のみでは原告において安定を欲する法律上の地位を直接に左右することなく、他の証拠をもつてしなければその法律上の地位を害されるおそれのない場合には確認の利益を有しないものといわねばならない。

しかしながら本件訴においては、

1  本件契約書の記載のみによつては原告が主張するように、原告が被告から賃借中のその主張建物を昭和二七年一二月末日までに明け渡さない場合には原告の訴外正木米吉に対する同訴外人所有宅地の賃借権を被告に移転することを約したものとはとうてい理解し得ず、右契約存否の争は他の証拠に係り、本件契約書の真否が原告主張の法律上の地位に影響を与える可能性を見出し難く、また本件契約書が真正に成立したことが他の証拠と相待つて右法律上の地位に何等かの影響を与えることがあるとしても、その場合は本件契約書の記載内容である法律関係そのものが意味を持つのではなく、ただ同契約書のような書面が原告の意思に基いて作成されたか否かという事実のみが状況的事実として意味を持つかも知れない程度であることは本件契約書の記載と原告主張の係属中の訴訟の内容とを対比して明らかである。

2  原告が準備中であるという被告に対する損害賠償請求訴訟は原告の主張によれば、その主張の原告の宅地賃借権を原告敗訴判決によつて侵害されたことを原因とするものであることが明かであるところ、本件契約書の成立が真正でないことの確認のみではその訴訟の結果を左右し得ないことは前記のとおりである。

したがつて、たとえ本件契約書の成立の真否について判断しても、原告主張のような原告の法律上の地位の危険又は不安を直接かつ根本的に除きこれを安定させることはできないといわなければならない。

よつて原告の本件請求はその確認の利益を欠くことが明らかであるから不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例